8月9日(Lift Me Up From the Darkness)

 悲劇的なのは、ヒトが個としての自己を滅却できないということだ。

 全体の一部として同化し、わたしというものを捨て去った積もりでいても、必ずやかれのの精神は深い傷を負い、血を流している。傷はかさぶたとなり、血は凝固するが、完全に治癒することはなく、かさぶたは残り続ける。

 なにかの拍子にかさぶたを剥がしたときには、傷を負ったその瞬間と変わらない鮮血が溢れ出る。

 かれは決して<わたし>を永遠に埋めることはできない。それはいつでも目覚めのときを待っている。

 目を逸らして生きるのが有効な手段であるときもある。だが、時間が決して癒せない傷が他者の中にあるのではなく、自らの中にあるということは常に事実なのだ。

 その声が問うことばは、いつも変わらず、その敵がなにものなのかではなく、あなたは何者なのか、だ。