5月の朝

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日曜日の朝は物哀しい。チロが死んでからはとりわけ。かの子が高校に合格したとき、卒業までの週数を指折り数えてみてたったの150週しかないのに驚いた。わたしがこの家にいる日曜日は、あと150回しかないんだ。150回の日曜日の後に、わたしはわたしでない他のなにかになっていないといけないのだろうか。

世界の壁紙が剥ぎ取られたような衝撃だった。それからかの子にとって日曜日は死の曜日になった。今朝の寝覚めどき、もうすぐあと半分だけしか残っていないにちようのあさ。

一度姉にこの煩悶について話したことがある。あんた下らないこと考えるのね。私後5ヶ月でこの小さな街を出れると考えたらせいせいするわ。かの女の出ていく朝、駅のホームで突然わんわん泣き出して、お姉ちゃん、せいせいするっていってたじゃない。お父さん、あなたの部屋はそのままにしとくって。何が変わるの、夏休みには帰ってくるんでしょう。かの子ははじめて両親と姉を冷ややかに見ているのに罪悪を感じた。弟が、「へぇ~、姉ちゃん意外と泣き虫だなぁ。ねえ、かのちゃん。俺、連休になったら姉ちゃんのとこに泊まりにいけるかな」。

「なに下らないこといってるの。あんた今年受験でしょう」、「いいのいいの、俺頭いいもん」。2歳ずつ齢の離れた三人姉弟。これから1年置きに手放していって、せっかく建てた家も5人とチロで住んだのはほんの2年ばかり。去年チロが死んで、今年は姉。急にお父さんお母さん老けたみたい。

昨日告白を受けたのが現実感ない。そうよ、今日はデートの約束をしたんだ。かの子を眠りから連れ出したのはちち、ちち、というアラームの音だったのを思い出し、見やるともうすぐ7時25分。いつもならとっくにご飯を食べてる時間。だけど今朝は気分じゃないしお母さんも用意していないだろう。日曜はお父さんが朝寝坊し、お母さんが居間でのんびり本を読んでる日。1週間に1回しかない日なのに、身体もすっかり覚えているものだ。

斉藤君のことよく知らない。でも、あんなに声まで裏返りそうになってるのに悪くなってしまって、今日のことオーケーしてしまった。サッカー部の斉藤君。一年のとき同じクラスだった。あのひとかっこよくない?水沢さんたちが話してたの覚えてる。高い窓から流れ込んでくる空気はまだひんやりしている。かの子は足を引っ込めて毛布にくるまりなおし、温もりにしがみつく。