博士が愛した爆弾

 今でもそうなのかはわからないが、一時期甲斐よしひろは相当U2が気に入っていたようだ。


 KAIFIVE時代には相当U2を意識した曲アレンジをしていたし、感覚も似ているような気がする

U2に'ANGEL OF HARLEM'という曲があるが、この曲は甲斐バンドの「天使(エンジェル)」という曲

とかなり似ていると思う。甲斐バンドの曲よりもU2の方が10年ほど後の録音だが、まさかU2が甲斐

バンドの曲を知っていたということはないだろうし、U2のこの曲はアメリカンルーツミュージックをリ

スペクトする思いから書かれたものだから、甲斐バンドの曲と共通の元ネタとなる曲があるということな

のかも知れないが。


 そういった些細な共通点は抜きにしても、甲斐よしひろのバンド活動の軌跡とU2のそれにはどこか通

じるものがある。共に出発点からキャリアを重ねるにつれて大きくその音楽の表現の幅を広げ、その画期

をなすいわゆる<3部作>を持つ。そういった実験的な作品にあってもポップな感覚は失われていない。

ロック、ポップという音楽に関する感覚、ミクスチャーの感性が似ているのではないだろうか。


 はじめはロックの殉教者的なセンシティヴなイメージからスタートしながら、今やいってることはとも

かくやってることは国際コマーシャリズムの尖兵じゃない?という正反対にしか見えないところまで来た

U2。時間を重ねれば方法論もその見た目を変え、ボノがセレブの格好でハリウッド人種と付き合うのも

別に心を売ったということでもないのだろうけれど、やっぱりどこか現実感のない雲の上に行ってしまっ

た感覚は否めない。でも、まるでハリウッド映画のサントラ集みたいだった前作に比べると、最新作"HOW

TO DISMANTLE AN ATOMIC BOMB"はかなり落ち着いた印象。ボノが父を亡くし、何となく旅に一区切りつ

いた感覚があることも関係しているのだろうけれど、<アメリカ>に飲み込まれない距離感を身につけた

ということなのかも知れない。


 もし甲斐よしひろがバンドを続けていたら、今頃スケールは違えど似たようなところに辿り着いていた

のかも知れないなあ、という気もする。