完全犯罪―フェアリー

 俺が甲斐よしひろの音楽を聴くきっかけになった、萩尾望都甲斐バンド甲斐よしひろの曲をモティーフに書いたミュージカル・漫画に冠されていたのが、このタイトルだった。

 「フェアリー(完全犯罪)」は、甲斐よしひろのロック観をよく現わしている。デビューアルバム『らいむらいと』収録の「No.1のバラード」のBob Dylan 'Like a Rolling Stone'の系譜を継ぐ歌詞には不似合いなほどのキャッチーなメロディ、1995年『GUTS』における「レディ・イヴ」の90年代のポップ感覚。

 ロックは本来、キャッチーなポップの最前線であった。The Doorsの'Light My Fire'、'Touch Me'といった曲群のメロディーの楽しさ、まるでJim Morrisonの荒っぽいラフな歌い方には似つかわしくないCMにでも流れていそうな大衆受けするメロディ(実際、<ただの>ポップスとしてカヴァーされている)。

 そう、ヴォーカル、アレンジとの違和感、これが<ただの>ポップスを不穏なロックに変貌させる。The Sex Pistolsの並外れたポップ感覚はパンクで世界を征服し、oasisグランジを駆逐した。

 「ビューティフル・エネルギー」の甲斐ヴォーカルヴァージョンを聴けば、なぜこの曲がメイン・ヴォーカルでない松藤英男のヴォーカルで発表されたのかが即座に理解できる。お茶の間のCMとして流れるにはあまりに不穏で、青少年を淫行に走らせかねないと教師たちに不安を抱かせる青いセクシュアリティ

 「フェアリー」。この純朴な歌詞の向こうに見えるのも、明らかに小さな悪女の微笑だ。