甲斐バンド 全曲レビュー その1 「あの頃」


記念すべき甲斐バンドオリジナルアルバムのオープニング・ナンバー。

どこまでがバンド自身の意向が汲まれたものなのかわからないが、『英雄と悪漢』の曲に比べると、何となくお仕着せのアレンジの感じ。このアルバム全体にいえることだが、よく聴くと結構捻ったアレンジ(この曲もギター一本からドラムが入ってくるところなど、結構渋い)もあるものの、この曲にはこのアレンジでなければ、という必然が感じられない。

『らいむらいと』の曲群は、ほとんど甲斐よしひろが照和でソロでやっていた曲を集めたものなので、もともとバンドでつくられたものではない。ロッキンオンの渋谷陽一ジミー・ペイジへのインタビューで、ある曲についてメロディー先か、リフ先でつくられていったものか、執拗に問い質して、リフ先との回答を得てしたり顔だったものがあったが、曲作りの上で、バンドサウンドを想定したものか、弾き語りを想定したものか、というはじめの一歩は、非常に大きな要素なのだろう。

そういう意味では、おそらくレコーディングの際のアレンジから考えられたものの多い後の楽曲群に比べて、『らいむらいと』の曲群はかなり性質の異なるものなのだろう。ある意味では、甲斐よしひろの個から発したメロディー世界であるといえる。

『らいむらいと』の楽曲群の大半に見られる、静から動へ、という変調の使い方が「あの頃」にはすでに見られる。これは実は後の「HERO」でより効果的に用いられる手法であり、そういう意味では、甲斐よしひろの地芸なのかも知れない。

詞は、非常に高校生くさいとえばそれまでだが、まだ喪う痛みを知らず、「僕の思いよ 闇を突っ切って あのこの胸に届け」と希望を衒いなく唄える若木のような明るさが、感慨深い。