月の物語

 使えるものがないか残っている昔のワードファイルを漁っていたら、こんなのが出てきました。更新日時を見ると、1998年10月31日になっています。初めてパソコンを買ったのがいつなのかはっきりとは覚えていないのですが、この年の夏頃まではレポートとかは祖父のワープロを借りて作成していた覚えがあります。でも、Windows95だから多分買ったのは前年なんだよな・・・・。1年くらいゲームにしか使っていなかったということか(汗)。そういえば、初めはパソコンのキーボードの配置がワープロと違って使いにくく忌避していたのが、当時の男性教官に、君たちこれからは卒論書くときにパソコン活用しないといけないんだから、できるだけ普段からワープロよりもパソコンを使ってレポート作成するようにしなさい、とかいわれて不承不承使い始めたようなかすかな記憶がある・・・・。今考えると時代を感じさせるエピソードだなぁ(苦笑)。

 そういった経緯だとすると、これはパソコンでのタイピングの練習がてら書いたものかな。レポートより先に駄文を書くというのは以下にも僕らしいですが(苦笑)。

 そういえば、ワープロ使ってたから、初めはかな入力派だったんだよな~。説明書の類は絶対に読まないし読めない人間なのによくすんなりローマ字入力に矯正できたもんだ。ああ、<ん>の入力の仕方がいまいちピンと来なくて同級生と<n>なの、<nn>なの?なんて話をしてた記憶もある。適当にやってないでちゃんと指使い覚えないと後後まで苦労するわよ、なんて女子にたしなめられたり。それなりに苦労してたんだろうなぁ、俺。結局未だにブラインドタッチはできても人差し指しか入力に使えない駄目人間のままです、ごめんなさいNさん。



月の物語


  星の他に空に輝くものといったら、それは月だろう。お日さまは、熱くて適わない。あれは輝くのではなく、燃えるのだ。さて、月は何時も他(ひと)に照らされているが、寒くて仕様がない。星はといえば、自ら光を放っているのだから、暖かい事は暖かいだろうが、やはり淋しくて震えている。彼等の側には近付いてくれるものなど在ろう筈がない。月は淋しい、寒いと呟いて、空に揮えつづける。星たちは、自分の孤独に気づかない振りをしながら、時々ちらちらと月に他(ひと)恋しげな眼差しを送っている
  月の瞳に涙が流れればそれは氷となるだろう。星の眼にそれと同じ水が浮かぶ事が有ったとしても、それは,その星の熱さによってかき消されてしまう。月の涙は空に宝石のように散りばめられて、星のように輝くが、凍った星は、月をすげなく捨て去って、いつもどこか遠くへと流れてしまう。月の乙女はほっと溜め息を吐きながら、何時も蒼い海の住処へと戻って行く。空に一面に散りばめられた星々は、そんな娘の悲しみなどは知らず、兄弟たちの在ることを知らず、ただ淋しく心を天の海に浮かべる。
  月は寒さに眼を瞬かせ、辛抱、辛抱と呟きながら、手の届く限り、捕まえうる限りの涙を織って透き通った羽衣をつくった。時々それは星の光に煌いて、ほんのひととき月にほっと溜め息を吐かせては、解けて消えて行くだから今も、月は辛抱、辛抱、と呟いて、涙の粒を集めているのだ。
  星の乙女は何時かは願い叶って、冷たく凍った空を駆けて、暖かな星の群れを差して、漸く編み上がった涙の衣で寒さを凌ぎ、去って行くかもしれない。それまでは彼女にはまだ望みが在るので、空の座椅子に座って星々の夢にことことと冷たく淋しく微笑を浮かべていられるだろう。然し、星々はそんな淡い望みを抱くには余りにも一人で、余りにも歳経りすぎて、時々に遠くにある仲間を思うときにも、苛々と焦れるような思いしか抱く事が出来ない。
そんな月と星々の見詰める中を、わたしは歩き出した。ずっとずっと遠いところにある高い高い塔を差して歩いて行った。空は限りなく冥く、道は果てしなく続くように長かったが、私は丘陵も畑も、荒野も森も、岩山も、唄を歌い、時に思い出し笑いをしながら、弾むように、どんどん過ぎて行った。木々はざわめいて久しい旅人を迎え、山々は黙したままで私を通した。月の乙女にも見えていたはずだが、彼女がどんな思いを持ったか私は知らない。