六月の夜
吹き渡る風が木枝を奏で コオロギが唄い応じる夜半過ぎ
初夏の暗闇が沁み込んでくる
冬の漆黒の夜よりもずっと昏い 逃れ難い予兆の闇が
定められた悲嘆
父も妻も子も猫も歴史も やがてすべては抗いようもなく私の身体を過ぎゆく
それは遥か昔老詩人がミスロンドの埠頭 渡し板を踏んだ軋み声
青緑色の愛おしい六月を
抱きとめてくれる夜の記憶を 翌朝連れ去る嵐の匂いが幽かに含まれている
笑い声が聞こえる
子供と、その子供と、その先の子ら 父と、その父と、ずっと前までの父たちの
この便りが届いたら 年若い貴方もソファに身を沈めて思い出して欲しい
貴方の旅立つ晩 そのベッドで聞く懐かしい風の歌を