100万$ナイト①

 甲斐バンドはライヴバンドである、といわれました。

 彼らにはライヴの定番曲と呼べる曲群がありますが、特に70年代の曲は、そのどれも、ライヴにおける

テイストはアルバムにおけるそれとかなり違っています。

 たとえば、70年代の甲斐バンドのライヴにおけるオープニングナンバーとして定着していた「きんぽう

げ」という曲がありますが、これはアルバムヴァージョンでは気だるさを漂わせたミドルテンポのナンバ

ーですが、ライヴではストーンズにインスパイアされたリフの唸りを強調した、ロック・ナンバーに早変

わりします。余談ですが、かつて、10年も前になりますが、再結成していた甲斐バンドダウンタウン

音楽番組『HEY!HEY! HEY! MUSIC CHAMP』に出演したとき、松本一志が「きんぽうげ」をトークの中で引

き合いに出したので、これはライヴにいったことがあるんだろうなあ、と思った記憶があります。それく

らい、ライヴとアルバムではイメージが違うのです。

 他に、70年代に生まれたライヴの定番曲といえば、「翼あるもの」、「漂泊者(アウトロー)」、「嵐

の季節」、「ポップコーンをほおばって」、「氷のくちびる」、「港からやってきた女」、「LADY」、

「最後の夜汽車」などがありますが、どの曲も現在も甲斐よしひろのライヴで演奏されるとシンガロング

大会状態になる、大定番ナンバーです。それだけでなく、これらの曲の中にあるドラマは、ファンの胸の

中に強い思い入れを抱かせ続けるに足る輝きを常に湛えています。

 中でも一種特別な荘重さを持つのが、「100万$ナイト」という曲です。

 ライヴではしばしばラスト、あるいは本編の最後に、10分近くに渡って演奏されるこの曲は、まさに

70年代終わりから80年代初めの甲斐バンドの空気を象徴するナンバーといっても過言ではありませ

ん。

(続きます。)