くるみ ―――不良中年でもチョイ悪でもない行き方

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 甲斐よしひろ、ニューアルバム『10 Stories』の中に取り上げられた中では、多分一番新しい曲、Mr.Children、2006年発表の曲です。

 ミスチルって、モロ俺の世代なんですが、俺はCDも買ったことないですw。一度活動休止する前までのシングルぐらいは知ってますけど、まあ、当時は聴く気がなくてもガンガン街でテレビで流れまくってましたからね~。

 「くるみ」も、なんとなく聴き覚えはありますが、CDで聴いたことはなかったので、へぇ~、こんな歌詞だったんだ、と。

 この曲を取り上げるところに、甲斐よしひろのスタンスがあると思います。チョイ悪オヤジだ、不良ロック中年だと、世間で持て囃されていますが、彼の行き方はそれとは対立している。<甲斐よしひろ>という存在を良く知らない世間にとっては、バンドスタイルの不良ロックで出せば一番わかりやすいでしょう。ですが、近年の彼はプログラミングを多用した制作方法で、ギミックでなく、今のリスナーの耳に届く音楽、本当の大人の音楽を追及しているように見えます。

 不良中年だ、チョイ悪だ、といってもその実は無責任なだけじゃないですか。家族を、社会を、時代を引き受ければ、40代、50代の男が優雅に洒落っ気を出して内輪受けの楽しみに耽っていていいんですかね。半分リタイヤした気分で自分だけの楽しみを追求しててどうするのかと。今、一番現実から目を背けているのはニートな20代ではなく、この世代だと思う。

 甲斐よしひろは、むしろ逃れられない重荷と枷を背負わされてすべてのことに直面している30代(及びそれに近い生き方をしている人々)の心情に寄り添っています。女性はキャリアに、人生に精一杯で男のことになど構っていられず、男は弱さを隠すこともできずただ家族を、会社を支えるために毎日を引き受け進まなければならない。

 「くるみ」が歌うのは、愛するものを失った心を硬質化して、ただ日々に戻っていかなければならない、ただ見も知らない世界のどこかの誰かに(目の前の誰かではなく)、ふたりに代わって幸せになるを祈ることしかできない、真空保存された魂だ。

 甲斐よしひろはいつも<ブルーカラー>の側に立って歌ってきた。そして今も彼は現代のブルーカラーと同じ目線で彼らに届けるべく歌い続けている。