テロルんです

 高校時代、俺は周りに同年代の甲斐さんのファンなどおらず(当たり前(TーT)、新作が出るたびにタイアップを気にしたり、甲斐さんの曲の世間での認知度アップを願っていたのですが、段々J-POPシーンにも関心が薄くなり(というか音楽が世間全般対象に大ヒットするとか、そういう時代でもなくなったし)、甲斐よしひろの音楽の世間での評価とか音楽業界での立ち位置を気にすることもあまりなくなりました。まあ、そもそも広報担当でもない一ファンが心配しようがしまいが関係ないでしょうがw。

 でも、甲斐よしひろの音楽というのは、年代に関係なく、大勢のひとが耳にすれば、そのうちの何人かの心には必ず届く力を持っていると思うんですよ。100人が聴いたら80人くらいが気持ちいいと思う音楽もあるだろうし、20人くらいは無条件に感動する音楽もあるでしょう。それに比べたら甲斐よしひろの音楽に何かを感じるのはその中の1人か2人に過ぎないかも知れない。でも、そのひとの中には確実に残る引っかかりをつくるインパクトを持っていると思うんです。

 だから、一方でできるだけ多くの人の耳に甲斐さんの声が届く機会があることを期待している面も確かにあるんですね。今回のカヴァーアルバムというのは、久々にそういうきっかけになり得る企画でもある気がします。多分甲斐さん自身もそれは充分意識してこの企画に乗ったんじゃないでしょうか。

 甲斐さんの声って、ある意味テロみたいなもんじゃないかと思います。

 テレビには心地よく<聴き流せる>声と耳慣れた音が溢れていますね。企業のCMには、それは好都合でしょう。万人にいい印象を与えられる音楽(おと)や映像(え)はなくても、少なくとも不快感を与えないものならば安心感を持って起用できるからです。

 しかし、甲斐さんの声は聴いた人を必ず振り返らせ、嫌悪感であれ、その逆であれ、はっきりとした感情を呼び覚ます類のものです。コマーシャル効果だけを期待するなら、これほど起用しにくい声はないと思います。ですが、企業の思惑など関係なく、多くの人が聴く聴きなれた曲が甲斐さんの声で歌われることによって異質なものに感じられる、そしてそのうちの何人かでも、それをその曲の隠れていた魅力と感じることができたなら、甲斐さんの目論みは正解だと思うんです。

 できるだけ多くの人がその機会を持つように、甲斐さんは誰もが知るような曲ばかりを選び、テレビにも積極的に露出しようとしているんだと思います。勿論充分だとは思いませんが、それでも今も甲斐さんは真剣に何かを伝えようとしているし、そのために闘っていると感じます。

 春のツアーでは、若い年代の観客の姿がこれまでよりももっともっと増えていることを、久々に、高校時代とは少し違う意味で期待せずにはいられません。