甲斐バンド 全曲レビュー その5 「週末」

甲斐バンド最新作『目線を上げろ』タイトルチューンの「目線を上げて」に似てることを発見。

よくある構成ではあるけれど、宣伝なんかで挙げられていた「嵐の季節」より、「週末」の方が雰囲気も似てると思う。

『目線を上げろ』への評価として、甲斐バンドらしいスリルや妖艶さがなくなった、とするものがあったが、『らいむらいと』を聴いていると、甲斐よしひろ個人としての本来の資質はむしろ『目線を上げろ』の姿なんだろうと思える。

甲斐バンドの特徴とは、次曲「バス通り」のアレンジのように、60年代くらいの洋楽っぽい、ちょっと捻ったアレンジにあると思う。以後のアルバムの楽曲も共通して、ロックの様式美に忠実な、かなりかっちりしたアレンジでつくられている。

だが、この『らいむらいと』では「バス通り」以外はむしろ素直なアレンジで、素の曲の良さを聴かせるようなものが多い。それ故、『英雄と悪漢』以降のアルバムと比べると異質に感じるのだが、意外と甲斐よしひろの近作(今回の『目線を上げろ』を含めた)には近い匂いがある。特に『らいむらいと』と『目線をあげろ』は、本来甲斐よしひろがソロを前提として書いていた曲が主となったアルバムである点でも共通しており、甲斐バンドが決して甲斐よしひろの単なるバックバンドなどではない、強固な音の志向を持ったグループであったことがわかる。

歌詞も、同じようなテーマを唄いながら、「週末」が、いってしまったあのひとが「いつも君は僕の中にいた」と懐かしむだけであるのに対し、「目線を上げて」が年月を経て「目線を上げて胸を張り転がる自分を信じて」と、年月を含めた喪ったもののおおきさ、痛みを痛感しながら立ち上がろうとする姿勢である点が、感慨深い。甲斐よしひろ自身が「週末」を意識していたわけではないだろうが。

「週末」、若者のナルシズムっぽい雰囲気を漂わせながらも、そうでなければ持ち得ないような美しさを湛えており、いい曲である。アレンジもストリングスの使い方がセンスがあり(実は『らいむらいと』のホーンやストリングスの使い方はかなりハイセンスだ。こうして聴いていると、エンジニアの違いもあるだろうが、「HERO」などのダサかっこいい路線があえてしているものであることが確認できる)、完成度は高い。今の甲斐よしひろに唄える曲でもないだろうが、バンドではなく、甲斐よしひろの曲としての評価で、外すことのできない曲ではないだろうか。