ショートショート 「クロスロード」

白けた砂が服の中にも口の中にも入って砂利砂利し男はぺっぺと唾しながら煙草を吸っている。風の中で煙草の先がぜえぜえいうように早い息で明滅する。男は十字路に立って四五体の真ん中に倒れた死体を見張っている。真昼の太陽は砂嵐で血管の妖しい色に霞む。男は都合十数本目に火を点けようとするがテンガロンハットを飛ばされまいと気にしながらのためか手で覆ってもなかなかライターは点火しない。ゆっくりと死体のひとりが頭をもたげるが男はすぐには気づかない。二体目三体目も動き出している。男はゆらゆらと一体目が立ち上がった時にようやく屍に気づきちっと舌打ちしながら拳銃を抜こうとするが風の為かベルトが絡まってすぐには抜けない。ゆらゆらと屍鬼が近づく。男は忌々しげにライターを放り出し屍鬼に眼を据えたまま三歩後じさりして散弾銃を掴み、ぶっ放した。かつては鉄道勤務の交換手だったジョンの顔にブツブツとみっつの大穴が開き反り返った。続いてアンナの頭を吹き飛ばし漂泊詩人を気取っていたナルサス爺さん(誰も本当の名前は知らない)の胡麻塩頭をぶっ飛ばした。だがインディアンの赤い鷹は他の屍鬼共とは違った。他の連中が止めを刺される間奴は低く身構えて蓬髪に隠された暗い顔の中で目玉を赤く光らせてこちらを窺っていたが爺さんの身体が倒れると同時に飛び上がり男の肩に掴みかかった。虎のように長く伸びた爪が食い込みコートが破れて血が噴き出す。憎々しげな表情首にはまだ男がかけた縛り首の縄がついたままだ。散弾銃を取り落し腕を上げることも封じられた男は銃帯を探るがそれも抜くことはできない。男は我知らずぬおおと雄叫びを発して上体を反らし倒れ様ブーツに仕込んだナイフで赤い鷹の睾丸辺りを抉る。赤い鷹は怪鳥の奇声を上げてもんどり打つ。男は帯から猟刀を抜いて掴みかかり喉を横一文字に一閃して止めを刺す。転がり落ちながら赤い鷹の首は奇声を上げ続けている。男のテンガロンハットが砂嵐に舞う。男は馬留めにすがって立ち上がり血の混じった唾を吐きながらズボンを探ってマッチを取り出す。肩が上がらず苦心して煙草を咥えるがライター以上に火を点けるのは容易ではない。俺もやきが回った。足に力が入らなくなり凭れた馬留めをずり下がる。目の前がサボテンの花の色に染まるが太陽の色なのか血の色なのか判別がつかない。尻をついた拍子にようやく火の点いた一本のマッチを口元に持っていこうとするが手が持ち上がらず頭の方をそっちに寄せる。最後の呼吸(いき)でようやく煙草に火が点いた。男は膝の間に頭を埋めて動かなくなった。埋み火になった煙草が男の皮脂を焼きしばらくして頭からぱっと燃え上がったときようやく男は動き出した。立ち上がった時かつて男だったものの右の眼球が熱でぶしゅっと弾ける。深く空いた眼窩から煙を吐き出しながら屍鬼はよろよろと十字路を西に向かって歩き出した。
 
何の捻りもございません(笑)。別に公開するほどの内容でもないんですが、まぁお稽古事くらいの気分で。
 
ショートショートって八千字くらいまでは含むらしいんですが、長くないかぁ?(汗)
 
僕は結構書いたな、と思って一休みすると大体決まって千二百字前後、昔でいう原稿用紙四枚位ですね。僕の場合一息ついちゃうとモチベーションとか集中力も途切れてそのまま続きを書くことがなくなってしまうのがオチので、頑張って息継ぎせずに書く、それがほぼ限界点です(><。小学校とか中学校の頃からそうだったので、身体に染みついているんでしょうか(笑)。