光と影

恋をした時に 知るものは
甘いときめきと にがい涙

私を忘れないで 君を忘れないよ
朝に光はとどくのに
この影のようなさびしさは
なんだろう

喜びと悲しみは 背中合わせに
いつも並んで 座ってる

         甲斐バンド「光と影」『英雄と悪漢』(1975)

台風が近づいているので、いつもとは違ってバスで帰ってきて停留所に降り、歩き出したとき、急に胸の中から染み渡るような寂寥感に襲われた。

不意にやってくる悲しみ、喜び、寂しさ、充実感。これらの感覚には理由をつけることはできないものだ。敢えていうならば、それは生き物の根源から発するもので、真の意味で充足することができない、そのために常に空白感は消えないのであり、また、満たされたことを喜びと感じることが出来る。

寂寞。萩尾望都の『スター・レッド』という作品に出てくる、封印されて生き物の存在を許されない惑星の光景が浮かんだ。遠く、どこまでも続く古代の石の遺跡の群れ。おおい、おぉ~い、呼びかけても風の音がやけに耳につくだけ。

星星は冷たい虚空に孤独だ。それは地上の街灯の灯りと同じように。「すべてナダ(無だ)」と繰り返しながら酒を浴びたヘミングウェイを懐かしく思う。どこまでも果てしのない孤独を悲しみに接続するため。