ふわふわとした絹の綿国

 日本の世論の底の浅さには腹が立つ。

 それは硬骨の言論人もきっといるにはいるのだろうが、耳に聞こえてくるのは、それまで中国が口出しするのは内政干渉だ、なんだとかしましかったのに、昭和天皇の発言が出てきた途端に相手が嫌がってることを強行するのはいかがなものか的な論調に傾き、天皇の継承順位の話題にしても、次男の家に男子が生まれそうだとなった途端に手のひらを返したようにやはり男系男子が継承すべきではないか、果ては世界で最も長く受け継がれているY遺伝子を途絶えさせていいものか、などという意味不明の論まで飛び出す始末。

 はっきりいって、「俺は政治認識のしっかりしたオトナだ」面している連中の大半が、自分の中に確たる揺るがない基準を持たないあやふやなガキだということがよくわかる。

 天皇の発言がいかほどのものなのか。昭和天皇が一体どんな偉大なことをしたというのだ。何千万という人が死んでいくのをただ黙って見ていただけのただのヒトではないか。お手盛りの根拠しかない天皇の血統などがどれほどのものなのか。あなた方は現在の天皇家が江戸時代に五条の河原から拾われてきた物乞いの子の子孫だとしたら彼らを祀る根拠を喪うのか。天皇のY遺伝子は何か、癒しの奇跡でも起こす能力を秘めているとでもいうのか。

 日本という地域に住む人は、天皇だとかクニだとか血統だとか国土だとか歴史だとか、そんな陽炎のような曖昧模糊たるモノにしか誇りを持てないようなフヤけた人間しかいないとでもいうのか。

 英国にしてもアイスランドにしても、同じ島国の歴史を見れば、ただ天皇という名前だけが1500年近く消えずに受け継がれてきたことが、日本という国のなんらかの独自性、優位性の証明ではなく、単にある種閉塞的な地域、もっとあけすけにいうとド田舎に共通して見られる特徴であるということがわかる(形だけなら英国王室は1000年近い歴史を持つし、アイスランドのアルシングと呼ばれる議会は1200年近く前から受け継がれた伝統だ)。そんなもののどこが強大な中華の圧力を前に、何度も危難にさらされてきた近隣地域を見下す根拠になるというのか。はっきりいって噴飯ものだ。

 そんなまやかしで眩惑的なかたちを疑いもなく受容する底の浅さ、そこに日本の<言論>のチャチさが見える。